コスチュームジュエリーのはじまりは、コルセットでウエストを締め上げる時代が終わり、女性向けの動きやすいファッションが登場した頃、既存のジュエリーでは似合うものがなく、その新しい時代の洋服にぴったりと合うようなジュエリーも合わせて作られたことからはじまった、と言われています。

しかし現在では、ひと言でいってしまえば、素材の制約や固定観念から解放され、デザイナーのデザインを実現するために自由な素材で作られたファッション・ジュエリーの総称といえるでしょう。

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ガラスや、樹脂、貝、ベークライト、コルクに木など、使われている素材は多岐にわたります。

※1940年代のトリファリのブローチ。通称 ジェリー・ベリー (Jelly Belly) と呼ばれるシリーズで、様々な動物たちのデザインがあります。このデザインを実現するために開発された特殊素材で作られていて、一見するとガラスですが特殊素材のおかげで軽く、透明感によって身につけるお洋服の色が透けてブローチに現れます。

宝石や純金を素材とするファインジュエリーとくらべると、素材の制約がないですから当然デザインの幅が格段に広くなります。

 本物の真珠ならば不可能なゴロゴロとした大粒のパールネックレスや、宝石なら途方もない金額になってしまうようなゴージャスなデザインのネックレスなど、常識にとらわれない、ユニークなデザインが可能になりました。 

※1950年代のミリアム・ハスケルのネックレスとブローチ。花びらが模造パールで作られています。天然のパールではなかなか実現が難しかったデザイン。

 

※コッポラ・エ・トッポのゴージャスなネックレス。
宝石で制作しようとすると大変高額なうえに、重くなりますが、ヴェネチアン・クリスタルビーズで作らえれているので付け心地も良いです。

そして、素材に幅を持たせたことによりデザイナーのスピリットをそのまま表現することもできます。

戦争を経たうえで、平和を強く願ったハスケルのジュエリーには、独特の繊細さと可憐さをもつ草花のデザインが多く見られます。 

ダイヤや純金があしらわれたファインジュエリーと比べると、もちろん安価な場合も多いですが、デザイン性の高さや、今では不可能となってしまった職人の手仕事は目を見張るものばかりで稀少価値が高いものも多く、高額品も少なくありません。

つまり素材の価値ではなく、デザインと職人技に対して価格がついているのです。 

 

※1950年代のクリスチャン・ディオールのネックレスとイヤリング。ブラックダイヤモンドに見える部分はすべてガラス。キュッと角度がついたハートは  「魔女のハート」(Witch’s Heart)とも呼ばれています。

※1950年代のクリスチャン・ディオールのチョーカー。
首元を流れ星が流れるようなデザイン。

コスチュームジュエリーを世に広めた第一人者といえば、やはりココ・シャネルでしょう。

1920年代後半、自身がデザインした美しいフェイクパールのネックレスを褒められたとき「私が付ければ、本物に見える」という粋な台詞を残したとか。

それはむかしむかしジュエリーが、男性の権力や財力を見せつける道具として、夫が妻に大きな宝石を身につけさせていた時代への、彼女なりの反発だったのかもしれません。

※1930年代のココ・シャネルのネックレス。ガラスで可憐な花びらを一枚一枚表現しています。花びらを薄く繊細に作るのはとても高度な職人技術を必要とするそうです。

※エルザ・スキャッパレリのネックレス。シャネルが大変ライバル視していたことでも知られる。シュールレアリストでダリなどのアーティストとも交流していた彼女の作品は、特に奇抜で斬新なものが多い。

女性運動の波と、戦争で男性が国からいなくなり、女性が自ら働きお金を手にした事。そしてシャネル、クリスチャン・ディオール、スキャッパレッリなど、様々な素晴らしいデザイナーの誕生によって、コスチュームジュエリーは急速に普及します。

発祥はヨーロッパですが、ミリアム・ハスケル、トリファリなどのデザイナーの登場や、ハリウッド女優たちが銀幕の中で身につけたことによって、アメリカにおいても、あっという間に人気を博して定着しました。

現代においてもファンはたくさんいますが、宝石や金のように、市場で価値が決まっているものではないため、自分で美しいと判断し、自分自身で価値を見出せる人にしか良さの分からない、少々マニアックなジャンルのジュエリーともいえるでしょう。