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What's Venetian Glass Beads?

ヴェネチアンビーズは、ガラスの島ムラーノで生産されるガラス棒(カンナと呼ぶ)を用いて、ムラーノ島及びヴェネチア市街(リアルト島)で作られるガラスビーズの総称です。

 

はるか古代から今日まで、ビーズはさまざまな時代、文明と深く関わってきました。なかでも16〜20世紀にかけて発展を遂げたヴェネチアのビーズは、その繊細で卓越した技術と華麗なる美しさで世界中を魅了し、私たちを惹きつけてやみません。

ルネッサンス時代に一世を風靡したヴェネチアンガラスの技術を、わずか数ミリのビーズの粒に凝縮した高度なテクニックと完成された造形美、スピアルーメ(ビーズ細工師)と呼ばれた名もないヴェネチアの女性たちの手によって、一粒一粒愛情を込めて作られた美しいビーズから、アフリカン・トレード用に作られた大胆で力強いビーズまで、手のひらに乗る一粒のビーズには、無限の小宇宙が閉じこめられています。

ヴェネチアンビーズとガラス産業

かつてのヴェネチア共和国の主要産業であるガラス工芸において、華やかなスポットライトを浴びる主役はいつの時代も男性マエストロであり、名門ガラス工房でした。技術の発展に寄与した工房一族には貴族の位をも与えられ、現在も貴族としてのエンブレム(紋章)を誇らしく掲げ、現在15代、16代目を継承する工房も残っています。

 

対して、ガラス工芸とほぼ足並みを揃えて発展したビーズ産業もまた、共和国の発展を支えた重要な産業であったにも関わらず、作るのに必要なものは小さな作業台とランプ、ガラス棒という簡素なもので、女性の家事のかたわらの手仕事という位置づけだったため、職人の名前は表に出ることはありませんでした。

 

しかし、19世紀、ヴェネチアのビーズはその完成された技法においても、美しさにおいても、ルネッサンス時代に一世を風靡したガラス工芸と比肩しうるものとなりました。

そして近年になって、女性たちの手で作られたビーズや、アジア、アフリカ向けに作られた交易用ビーズが脚光を浴び、その美しさと芸術性が認識され、特にアメリカにおいてブレイクし高値を呼んでいます。 

フィオラーテビーズネックレス|1840-50年代(小瀧千佐子所蔵)

ヨーロッパ向けのビーズは、14世紀初期にはすでにムラーノ島およびヴェネチアの街で作られており、16世紀に家内工業として盛んになりました。基本的にランプワークと呼ばれる巻きつけ技法でひと粒ずつ作られます。

 

ヨーロッパの上流社会の需要に応じたビーズの特徴として、肌の色、髪の色に合わせたパステルカラーや乳白色、透明な水色や緑色、不透明なコバルトブルーや金銀色が多いことが挙げられます。

 

形状はさまざまですが、艶があり、比較的小粒で(1〜2cm)華麗な文様が施されています。

代表的な技法としては、ヴェネチアで考案されたフィオラーテ(花文様)、ソンメルソ(色ガラスや金銀箔を内包したビーズ)、ヴェッテ(流麗な線文様)やレース文様、ソフィアーテ(宙吹きビーズ)などがあり、軽やかで、洗練された優美なビーズです。 

ムッリーネビーズネックレス|1920-25年(小瀧千佐子所蔵)

アフリカン・トレード・ビーズは交易用に考案されたビーズで、15世紀には盛んに作られていました。アフリカの国々の間で、また村々の間でも人々の好みはそれぞれ異なり、色彩はとりわけ重要な要素で、色彩が鮮烈である程、強い守護神の力が身に付ける者に宿ると信じられていたのです。

 

大粒で簡形、紡錘形が多く、不透明なレンガ色、黄色、青、線、黒、白などの光沢の無い素地にコントラストが際立つ原色で文様を描いたビーズは褐色の肌に映え、アフリカの人々を狂喜させました。代表格はロゼッタ(シェヴロン)、カンネ(縞文様)、ピューマーテ(羽文様)、ムッリーネ(モザイク文様)、オッキオ(眼の文様)など。

 

ヨーロッパ向けピーズとは対照的にやや粗削りで素朴な印象のあるビーズたちですが、交易用に開発されたおびただしい種類のムッリーネビーズの側面や断面をよく見れば、単にモザイクガラス棒を薄くスライスして素地に貼り付けているのではなく、緻密にデザインして正確に作られたモザイク片が、ビーズの素地深く丁寧に埋め込まれていることがわかります。最産するために工場でさまざまな工夫がなされましたが、あくまでも手作りにこだわったのでしょう。特別な役割を果たしたアフリカトレード・ビーズは力強く、時にユーモラスで、人に寄り添って温かく、その深淵な魅力は尽きることがありません。 

フィオラーテ、オッキオ、ムッリーネビーズ|1920-25年(小瀧千佐子所蔵)

ヨーロッパやアフリカの求めに応じて作られた10万種類ともいれるヴェネチアンビーズ。

 

同じ狭い地域で誕生した、まったく情の異なる2つのビーズですが、その美しさの秘密は、ムラーノ島から上質で豊かな色彩のカンナが常に供給されたこと、そしていつの時代もビーズ職人たちの妥協のない技術と限りない愛情から生まれたことにあると言えます。

それらは一千年の歴史とともに歩んできた、由緒正しいビーズであることを見る者に感じさせるのです。

現在は、ヴェネチアンビーズを生産している工場はムラーノ島に1つと、家族で運営する小さな工房を数カ所残すのみとなりました。彼らの後継者問題もあって、ヴェネチアンビーズを愛する者にとっては大変辛い状況です。

 

また、中国、インド、ルーマニアなどで作られたヴェネチア風ビーズや、ムラーノ島から購入したカンナを使用して他国で作ったものをヴェネチアンビーズと称し、海外で販売されていることが多い現状です。

困ったことに、そういった偽物であっても近年は作りが良いものが多く、見極めることは難しいでしょう。

 

きちんとした由緒正しきヴェネチアンビーズを手に入れることは、今後ますます困難になっていくと考えられます。

chisaのヴェネチアンビーズ

chisa代表の小瀧千佐子は、ヴェネチアンビーズの研究家・愛好家としてヴィンテージビーズを長年蒐集してまいりました。

厳しい状況の中で、今でも新たなデザインや技術を生み出すビーズ作家さんが少ないながらもいらっしゃるおかげで、chisaではヴェネチアンビーズを工房から直接仕入れ、アクセサリーを製作することができています。手づくりのガラスビーズのぬくもりと、ヴェネチアンビーズそのものの美しさを楽しめるような、シンプルなデザインラインを展開しております。

現在chisaのアクセサリーで取り扱うヴェネチアンビーズは、全て小瀧が工房に出向き、直接買い付けをしているビーズたちです。また、制作に立ち会い、色を指定し、オリジナルでお作りいただいている物もございますので、安心してお買い求めください。

chisaオリジナル

NINOシリーズ

― ひとの手が作り出した貴石、ヴェネチアンビーズの魅力をみつめて ―

また、小瀧は蒐集家としては珍しく、集めたヴィンテージビーズを自らデザインし、ネックレスにして保管しています。それは、「ビーズはつなぎ合わせてこそ、その真価を発揮する」と考えているからです。
すべて一点物ではありますが、蒐集したヴィンテージビーズたちを使ってデザイン制作したネックレスの販売も行っています。

ネックレス「勿忘草 –空色の花-」
Beads:Fiorate 指焦がし beads 1900年
/ Conterie lace beads 1900年
/ Morettie 単色 1950年
Design : Chisako Kotaki


ヴェネチアンビーズについてもっと詳しく知りたいという方は、以前にヴェネチアンビーズの美術展を行った際に発行した書籍がございますので、ぜひこちらをご覧ください。

ヴェネチアンビーズの歴史や技法について、詳細に解説がございます。

図録「ヴェネチアンビーズとコスチュームジュエリー」

(著:小瀧千佐子/2006年)

図録「旅するヴェネチアンビーズ」

(著:小瀧千佐子/2018年)