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Elsa Schiaparelli

エルザ・スキャパレッリ 

(1890-1973)

イタリア


1890年、ローマの歴史的宮殿パラッツォ・コルシーニに生まれたエルザ・スキャパレッリは、1920年代から50年代にかけて活躍し、ファッションを芸術の域へと高めた伝説的なデザイナーです。

 

父はサピエンツァ・ローマ大学の学部長を務めたアラビア語・中世写本の学者、母はナポリの貴族の家系。そして叔父は、火星の「運河」を発見したことで知られる高名な天文学者でした。幼いエルザは、その叔父とともに夜空を見上げ、星を眺めて育ったといわれています。古典と科学、異文化へのまなざしが交差する知的な環境は、彼女の生涯にわたる創造の源泉となりました。

 

同時代の永遠のライバルであったココ・シャネルが、職人的な技術に裏打ちされた実用的でシックなスタイルを追求したのに対し、スキャパレッリはシュルレアリスム、すなわち超現実主義の影響を色濃く受けた、大胆で幻想的なデザインを生み出しました。シャネルが彼女を「服を作っている、あのイタリア人芸術家」と評したように、スキャパレッリの作品には、装いの枠を超えたユーモアと芸術性が息づいています。

 

 

▲ サルバドール・ダリとの共作コレクションより 

 

 

▲ ジャン・コクトーとの共作コレクションより

 

彼女のジュエリーの背景には、著名な芸術家や優れた宝飾デザイナーたちとの深い交流がありました。サルバドール・ダリ、ジャン・コクトー、クリスチャン・ベラール、メレット・オッペンハイム、そして彫刻家アルベルト・ジャコメッティといった前衛的なアーティストたちが、彼女のためにデザインを提供しています。

 

さらに、後にティファニーで天才的なジュエリーデザイナーとして名を成すジャン・シュルンベルジェールも、当時はまだ無名の青年として、スキャパレッリのボタン制作からキャリアを始めました。そのほか、ジャン・クレマン、ロジェ・ジャン=ピエール、リダ・コッポラといった新進気鋭のクリエイターたちを起用し、彼らの才能を引き出しながら、自身の斬新なアイデアを次々と具現化していきました。

 

▲ サーカス・コレクションより、制作はジャン・シュルンベルジェール

 

1938年以降、スキャパレッリは「パガン(異教徒)・コレクション」、「サーカス・コレクション」、「ゾディアック(星占い)・コレクション」、翌1939年には「コメディア・デラルテ・コレクション」など、明確なテーマを掲げたコレクションを発表します。服飾だけでなく、その世界観を共有するファッションジュエリー、すなわちコスチュームジュエリーもまた、彼女の創造を語るうえで欠かせない存在でした。

 

しかし、これらの作品は商業性よりも芸術性を重んじたもので、ごく少数しか制作されませんでした。そのため現在ではミュージアム・ピースとして扱われ、市場に出回ることはほとんどありません。

 

第二次世界大戦を機にアメリカへ拠点を移したスキャパレッリは、戦後、自身の名を冠したライセンス展開によってアメリカ市場に再進出します。1949年にはニューヨークに Schiaparelli Jewels を設立。高まる需要に応えるため、イタリア・ナポリ出身の移民ジュエラー、ラルフ・デ・ローザが創業したラルフ・デ・ローザ社をはじめ、複数の工房に製造を委ねました。

 

 

ラルフ・デ・ローザ社は、スキャパレッリの色彩への並々ならぬこだわりを見事に具現化しました。金属パーツを何層にも立体的に組み合わせる建築的な構成、オーストリア製の最高級ラインストーン、上質な模造パール、そしてエナメル技法などを駆使し、華やかで個性あふれるコスチュームジュエリーを生み出していきます。

 

量産といっても、それは戦前のクチュール作品と比べてのこと。現在、コンディションの良いスキャパレッリのジュエリーは非常に貴重です。彼女の名を宿す作品はいずれも、製造期間も流通数も限られた、極めて希少なものばかりです。

 

 

一点一点に込められているのは、シュルレアリスムの夢想であり、芸術家たちとの真剣な遊びであり、そして「美しいものは、ときに人を驚かせるものでなくてはならない」という、彼女の美意識そのものでした。

 

ブローチひとつを手のひらに載せたとき、そこから立ち上がってくるのは、1930年代のパリのアトリエの空気、ダリやコクトーが交わしたであろう会話、そして「服を作っている、あのイタリア人芸術家」と呼ばれた女性の、唯一無二のまなざしです。

 

アートを身に着けることで自己を表現する。その贅沢を体現したスキャパレッリのスタイルは、時代を超えてなお色あせることなく、私たちを惹きつけます。

 

スキャパレッリのジュエリーは、身につけるためのものであると同時に、ひとつの小さな美術品でもあります。自由で大胆な創造の喜びを宿したその作品は、いまも静かに、そして鮮やかに、私たちに語りかけてくる存在です。

 

どうぞ、その豊かな世界に触れていただけましたら幸いです。




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