修復内容詳細
劣化が激しいので、全体的な補強と補修、欠損したラインストーンの補充を行った。
ブレードを垂らした部分が、現状と過去の展覧会の写真とで大きな差があるため、ブレードを取り外し、組み直す作業も行なった。
裏の当て紙:劣化していたので、クラフト紙を用意して型を取り新たに作成。
針金:露出している部分があったので、銀糸で巻いて隠した。
ラインストーン付きブレード①②:リボンから外れたラインストーンは接着剤で留め直すこととした。できれば接着剤は使用したくなかったが、お椀状で石を下から包み込んでいる金具は大変柔らかく、一度歪んでしまうと、元のように石やリボンをきちんと掴めなくなってしまう。展示に耐え得るよう接着剤を使用することとした。千切れているブレードは、銀糸で繋ぎ直し補強した。
過去の展覧会の写真を参考に、垂らしたブレードは、一旦全て外して元の状態に近づけるよう組み直すこととしたが、どうしても左手のストーンを垂らす箇所に用いる長さが足りなかった。しかし、よく観察すると、ジグザグの部分には4、5ミリのブレード、垂らし部分には4ミリのブレードが使われているが、一部入り混じっていた。ジグザグ部分に一列、4ミリのブレードが混じっていたので取り外してみると、左手のストーンを垂らす部分に丁度良い長さがあった。垂らした部分にも一部、4、5ミリのブレードが混じっていたため、ジグザグ部分に持ってきて組み直すと、収まりよく違和感も無かった。ブレードは全て、銀糸で縫い付け直しをした。
ブルーのストーン:糸で吊されているが、太く無骨な白い糸で黄ばみも気になるので、付け替えることとした。絹のグレーの糸を使用。
スナップボタン:かろうじて生地にくっついて残っている状態だった。古い銀糸の布にクラフト紙を当ててあるだけなので、今後の着け外しに耐えられるよう、当て布で補強することとした。グレーのフェルトを使用。
修復を終えて
とにかくボロボロ、どこから手をつけようかと初めは途方に暮れてしまったが、写真をもとに、できる限りその状態に近づけるよう、展示に耐えられる状態にまで強度を出せるよう努めた。幸い不足しているパーツもほとんど無く、分解し組み直し修復し終えることができ本当にほっとしている。
マスクの緻密さとは違い、全体から感じるざっくりとした印象は、初め途中で修復されてし まったせいかと思ったが、鉛筆で何か描かれた裏当て紙が剥き出しのところや、ブレードの縫い付け方の荒さ、垂らしてあるブルーのストーンはドロップ型を使わず、わざわざ半球のものを貼り 合わせて一つにしてあるところから、急ぎ必要になり、アトリエにある素材で即興的に制作され たものなのではないかと推測出来た。100年前のアトリエでのドタバタを想像してしまう。
即興的だからこその勢いと存在感。不思議なデザイン。ポワレ夫人もきっと驚き、ワクワクしつつ身につけたのではないだろうか。
ポール・ポワレ『深海』 修復記録
《マスク》
《ブレスレット》
VOL.6【修復作業】