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ポール・ポワレ『深海』修復記録 VOL.3 マスク【修復作業】

修復内容詳細

<裏面>
裏面の額部分、修復が入っていないオリジナルのチュール生地はボロボロで、表面のビーズが露出している部分もあり、生地を足すこととした。
生地は絹の銀糸のチュールで、インターネット日や暮里繊維街等で探したが、銀糸のものではゴワゴワとした固い化繊のものしか見つからなかったため、白い絹の生地を、墨汁、ミョウバンを用い、シルバーに近い色合いに染め準備した。
縫い付けのための糸は、なるべく目立たぬよう、細くても丈夫で摩擦、湿気にも強いポリエステルのミシン糸を使用した。色は、目立ちにくいようグレーベージュを選択。

<表面>
全体的な刺繍の補強と、欠損したパーツを補う作業を行った。

 

コンテリエビーズ①:糸が非常に弱くなっており、全て縫い留め直す必要があった。オートクチュール刺繍の方法で縫い付けられているが、その方法で縫い直すにはビーズを全部外し糸に通し直す必要がある。出来るだけビーズの位置を動かさず、オリジナルの状態を残したいことから、一針毎にビーズを通して縫い付ける一般的な方法を用いることとした。糸はポリエステルのミシン糸を使用。色はグレーベージュ。
コンテリエビーズ②:カットの入っているコンテリエの部分については、以前の修復でしっかり縫い付けられておりこれ以上手を加える必要がないと判断した。
コンテリエビーズ③:全て縫い留め直し。

ローズモンテ:欠損部分がいくつか見られた。コンテリエと同様、生地の間に入り込んだものがいくつか見つかったものの、全体の欠損を補うことは難しかった。
小瀧氏より、古い4,5ミリサイズのローズモンテを譲り受け、欠損部分に充てることとし、それ以下のサイズは製作することとした。座金は大変柔らかく、艶のない鈍い銀色のメッキが施されている。メッキのかすれ具合から真鍮とは思われるが、目立たないようメッキの色と質感の似ているアルミ合板を使用した。プレスで作られているが、型がないため、厚めの板を切り抜き、糸通し溝を彫って刺繍に対応できるようにした。ローズモンテ型の石は、既製品に同様の形のものがありそちらを採用。こちらも全体的に糸が弱っていたため、全て縫い留め直し。糸はポリエステルのミシン糸を使用。色はグレーベージュ。

ラインストーン付きブレード①:ラインストーンの欠損は2個。裏側の受けのコーン型座金のみの欠損は1個。トップの部分で、石も大きいことから、正面の近くの欠損は目立つため、後ろ側のものを移動。欠損分は作製。シルバー色のメッキが全体的に薄れ、真鍮の肌が見えていたため、素材は真鍮板を使用。真鍮板から切り出し作成。使用されている銀糸が太く、存在感があるため、留め直しには銀糸を使用。

ラインストーン付きブレード②:欠損はなく、糸が弱っているため、縫い付け直しのみ。糸はポリエステルのミシン糸を使用。色はグレーベージュ。

ラインストーン付きブレード③:石の欠損があり補う。糸が弱っているため、全体的に縫い付け直し。糸はポリエステルのミシン糸を使用。色はグレーベージュ。

モール糸:劣化はあるが、手を加えると作品の雰囲気が変わってしまいそうなので、そのまま。

銀糸の束:縫い付け直しのみ。糸は銀糸を使用。

ホック:縫い付け直しのみ。糸はポリエステルのミシン糸を使用。色はグレーベージュ。

修復を終えて

現状の雰囲気、100年分の歴史を損ねないよう、できるだけ目立たず展示に耐えられる強度を保てるように修復することに努めた。修復によりマスク制作の足跡を辿ってみて、非常に緻密に計算され形作られていることが実感できた。ビーズを縫い直し全体の強度を取り戻すと、額のカーブに沿うようにタコの頭に立体感が生まれた。マネキンに当てると、正面の扇状の5本の足が立ち上がり鼻に高さを出した。左右の耳の横からぐるりと上を囲む銀糸の束は、しっかりと頭まわりを押さえ安定感を出しつつ、顔の正面下部は銀糸の束が入っておらず柔らかく仕上がり、付け心地の良さも伺える。
きっと、ポワレ夫人とは、高い鼻で、きれいな丸い額、細面で、このブルーの妖しいタコのモチーフを着けこなす素敵でユーモアも持ち合わせた人物だったのではないかと、自然と想像できてしまう。
技術を尽くし、心を傾け、誰か一人その人のためだけに作られたものというのは、これほどの意思を100年の時間を超えても語るものなのかと感動しつつ、どうにか修復できてよかったと ほっとしている。


ポール・ポワレ『深海』 修復記録

《マスク》

VOL.1【形状・構造・状態について】

VOL.2【素材について】

VOL.3【修復作業】

《ブレスレット》

VOL.4【形状・構造・状態について】

VOL.5【素材について】

VOL.6【修復作業】